今のような混沌とした時代にこそ
メッセージ性の強いアートが生まれる

Q. いくつかのコレクションでブランドのルックにも見られる、アートとファッションの親和性についてどう思われますか?
「著名なデザイナーがアーティストを起用してコレクションを発表するなど、ファッションにとってアートは欠かすことのできないスパイスのような存在なのかなと考えています。アートそのものがファッションとして成立することはあまりないかもしれないですが、相乗効果が期待できるのは間違いないこと。それぞれが共存共栄し、刺激し合いつつ成熟していけたらいいですよね」

Q. 状況が目まぐるしく変化している2020年。アートの現状はいかがでしょうか?
「アートに限らず、今年はいろいろと難しい年ですよね。アートは常に時代を映す鏡なので、人に元気を与えたり、何か強いメッセージを伝えたり、そういった力をより発揮してくれるんじゃないかなと考えています。今置かれている状況に対して、フラストレーションを抱えている作家さんもたくさんいらっしゃるので、この混沌とした時代だからこそ、そういったメッセージ性の強い作品が生まれるはず。今の時世を反映した、瞬発力があってエネルギッシュな作品がいっぱい出てきてほしいなと期待していますね」

Q. 中目黒のアートギャラリーでキュレーターを務められている伊勢さんですが、芸術に親しまれている人、逆にそうではない人にとって、[VOILLD]はどういった場所になることを目指していますか?
「そうですね、ギャラリーと聞くと敷居が高く感じられる方が多いので、うちは適度な緊張感を保ちながらもカジュアルに楽しめる場を提供することをずっと意識しています。作品も数万円のものから、手に取りやすいものまでを展示しています。それこそアートに親しまれていない方にもあまり気負わず、街遊びの延長として来てもらえたら嬉しいですね」

Q. “コンテンポラリーアート”と聞くと高尚な趣味で、難しく捉える人もいると思いますが、わかりやすく教えてください。
「うちは、いわゆるコンテンポラリーアートのギャラリーとは、ちょっと違うのかなと考えていて。オルタナティブというか、お客さんの層も若いですし、言うなれば現代アートのもっと手前のところにいるような気持ちでいます。自由でピュアな気持ちで作品に向き合うのが、私が考えるコンテンポラリーアートの楽しみ方。アートを感じるきっかけは意外といろんなところに転がっているので、まずは興味を持ったものに対して気軽に掘り下げてみる、みたいなことがいいと思いますね」

PHOTO_Ryo Sato (TRYOUT)

PROFILE

伊勢春日さん
東京都出身。学生時代からアートに親しみ、2014年に[VOILLD]を立ち上げる。展覧会の企画、ディレクションをする傍ら、アートイベントのプロデュースも手がける。[VOILLD]とは空虚という意味の“VOID”に、かっこいいを表現するスラングの“ILL”を組み合わせた伊勢さんによる造語。