Interview with Fashion Analyst
今シーズンのファッション、
トレンドに詳しい2人はどう捉えた?
高揚感に満ちた2022年春夏のファッションシーンについて、ファッションライターの栗山愛以さんと[レイ ビームス]ディレクターの長塚理紗さんに話を伺った。2人が用意してくれたイットアイテムからも、今シーズンの気分が手に取るようにわかる。
PHOTO_Haruki Matsui(TRYOUT)
FASHION WRITER
Itoi Kuriyama世の中の動きを見極めながら
どのタイミングで、
何を提案するのかが重要。
――今季はリアルなショーを開催するメゾンが増えましたが、どういった印象を受けられましたか?
開放感や華やかさなど、気分がアガる服が多く見られて総じてハッピーな感じがしました。特にここ数シーズンは家の中で落ち着いて過ごそうとか、着心地のいいものをみたいな提案が多かったと思うんですけど、私自身あまり興味を持てなくて(笑)。だから今季は好きなムードですね。久しぶりにショーを開催したところも多く、お客さんもワクワクしながら観に行くわけだから、そこにリラックスとかアースカラーとかが出てくると、みんな「ん~……」となっちゃうでしょうから。
――「せっかく楽しみにして来たのに」って(笑)。特に今季を象徴するキーワードやブランドについてはいかがでしょうか?
ある媒体の対談企画で、LVMHプライズを獲った「ネンシ ドジョカ」というロンドンのブランドに注目しているという話をある方から聞いて、私もあらためて気にして見ていたんです。それが、胸が見えちゃうよっていうくらいのシンプルな服で、東京の街だと捕まるくらいの露出具合で。そこから本格的にコレクションを見始めたら、ほかのブランドも肌を出していて、もう肌見せが気になって仕方なくなりました(笑)。“Y2K”しかり、男ウケを狙っているのではなく、別にお腹が締まってなくてもいいじゃん、みたいなボディポジティブな雰囲気も感じましたね。皆さんも話されていますが、やっぱり「ミュウミュウ」が素晴らしかった。トラッドな服なんだけど、極端にレングスを変えることでこんなにインパクトが強くなるんだって。「エルメス」とかも肌見せなんですけど、おヘソは見えないバランスで、そうなるとエレガントな雰囲気が増して大人も躊躇なく着られそうです。
――やっぱり「ミュウミュウ」なんですね。確かに日本でも支持されそうです。
あとは「ディオール」や「プラダ」など、ミニスカートも多かったですよね。「バレンシアガ」にしても「グッチ」にしても、セレブが華やかな場に行くために着飾るような。「ルイ・ヴィトン」も舞踏会みたいでしたし。その一方、ゴスも多かったです。「ラフ シモンズ」の黒のドレスだったりメタルバンドのアートワークみたいなグラフィックだったり、そういう暗いブランドもあると(笑)。私も暗いほうというか、もともとパンキッシュやアンダーグラウンドな感じが好きなんです。ただ、ゴスにしても本気じゃないバランスで、やっぱりエレガントにまとまっています。
――エレガントがベースにあって、そこにヘソ出しやゴスの要素を上手くかけ合わせていると。
今はもう着想源がひとつではないですから。よく言われるように90年代以降はリミックスの時代だから、いろんな要素がひとつのコレクションに内包されています。少なからず既視感があることを考えると、世の中の動きを見極めながらどのタイミングで、何を提案するのかが重要になります。「ミュウミュウ」はそれがズバリでした。タイミングが大切なんだと、あらためて教えてもらった気がします。
- PROFILE
栗山愛以
「コム デ ギャルソン」のPRなどを経て、2013年よりライターとして活動。現在はモード誌を中心に編集や執筆を手がけ、14年から毎シーズン欠かさずパリコレに足を運ぶ。日本のブランドでは今季ショーデビューを果たした若手の「RYUNOSUKEOKAZAKI」に注目。
Instagram_@itoikuriyama
IT ITEM
1_メタルバンドT風のグラフィックが大胆に描かれた「MM6」のドレスは、あくまでエレガントに着こなすのが栗山さん流 2_「ミュウミュウ」のバッグと「MM6」のグローブ。華やかなメタリック小物も今シーズンのイットアイテム 3_クロップド丈とネオンカラーに今のムードを感じる「コム デ ギャルソン」のニット 4_“Y2K”が気分の今、あらためて注目しているという2009年に購入した「ジュンヤ ワタナベ コム デ ギャルソン」のミニスカート
[Ray BEAMS]DIRECTOR
Risa Nagatsuka芯のある女性像に共感を抱き、
2000年前後のスタイルにも
惹かれる。
――海外でのバイイングができなくなって久しいかと思いますが、ご自身のなかで何か変化などはありましたか?
画像やムービー、SNS、リモート展示会など、情報はたくさんあるんですけど、そのなかで自分自身の気分をより大切にするようになりましたね。以前のように海外のショールームを回れない分、「あ、これ可愛い!」みたいなピュアな気持ちを大事にしたというか。
――「そんな長塚さんに今シーズンのファッションはどう映りましたか?
前向きなパワーを感じて、落ち着いたムードが強かった秋冬に比べるとポジティブに、エネルギッシュにファッションと向き合いたいという思いが沸々と湧き上がってきました。ベーシックも素敵ではあるんですけど、それがあるからこそ新しいトレンドが際立ちますし、私としても変わらないことより変わりたい気持ちのほうが強いので。デザイナーたちのテンションも高く、パリス・ヒルトンに憧れていた世代ということもあって“Y2K”には影響を受けました。シーズンの方向性を考えるときに、特定の年代から入ることってほとんどなかったんですけど、2000年前後のスタイルは掘り下げましたね。セレブなど時代の中心にいた人たちはみんな力強くて輝いていて、何より自分の価値観を大切にしていたんだなって。私自身も、ここ数シーズンたくさんの制限があったからこそ芯のある女性像に憧れや共感を抱き、あの時代のスタイルにも惹かれたんだと感じています。
――今季の[レイ ビームス]でも、その辺りのムードを意識されているのでしょうか?
はい。“positive chic”をテーマにしていて、私たちがずっと大事にしてきたシックに、今季の流れを言い表すポジティブというワードをかけ合わせました。色で言うと、これまでの落ち着いた雰囲気のニュアンスカラーから華やかで元気が出るようなブライトカラーにガラッと振り切りましたね。あとは“ヘルシー”の流れで肌見せも提案しています。
――新しいバランス感覚を持ちながらファッションをより楽しむためのヒントがあれば、ぜひ教えてください。
私はジャケットが好きなんですけど、そういったクラシカルなものに着丈の短いTシャツやローライズのボトムスといった今年らしい服を合わせるのが良さそうです。全身トレンドアイテムで固めることに対して抵抗がある方や、譲れないこだわりをお待ちの方も多いと思うので、不変的なものと組み合わせて“こなす”のがポイントでしょうか。新しいエッセンスをバランス良く取り入れながら、その日の気分やシチュエーションに合わせておしゃれを楽しんでほしいですね。
- PROFILE
[レイ ビームス]ディレクター
長塚理紗
2009年にハイエンドなカジュアルスタイルを提案する[レイ ビームス]の販売員としてキャリアをスタート。バイヤーを経験したのち、19年に同レーベルのディレクターに就任。大のBリーグファンで、週一ペースでアルバルク東京の試合観戦に出かけるほど。
Instagram_@risa_nagatsuka
IT ITEM
1_「どうしてもお腹を出して着たくて」と、自ら裾をカットした「カルネボレンテ」のTシャツ 2_昨年好評だった[レイ ビームス]のブラトップ(¥6,600)は、今季チェッカーフラッグ柄が登場 3_肌が見えるようにカッティングされた[レイ ビームス]のブラウス(¥8,800)と、自然なシワ感が魅力の3Dテクスチャによる共地のスカート¥12,100 4_ウエストをカットアウトすることで、肌やインナーがチラリと見える[レイ ビームス]のスラックス¥12,100
※価格表記がないものは、本人の私物になります。