JOB 美術作家 NAME 植田志保

Interview withSHIHO UEDA

私、消しゴムを持っていなくて。
色って後戻りできないものだから。

―― 色彩感覚豊かな作品は、どのように生まれたのでしょうか?
少し抽象的な言い方になってしまうのですが、自分のなかでは、そこかしこにある色と目が合い、それをつかまえ、言葉や絵に置き換え表現しているような感覚です。ピアノを習っていた幼稚園の頃に、それぞれの音に色がついているように見えて、それが混ざり合ってひとつの絵のように見えました。まるで色が生きているような感覚。なかなか言葉で表せなかったのですが、中学生の頃から“色のすること”と呼んでいましたね。それ以来、創作活動は今日までずっと続いています。

植田志保 1

―― “色のすること”、素敵な言葉ですね。普段作品を制作するうえで、一番大切にしていることはなんですか?
目に見えるものよりも、心で感じ入ることを第一優先にしています。頭で理解が追いつかなくても、後から理由や説明は追いかければいいかなと思っていて。実は私、消しゴムを持っていなくて。なぜなら、色って後戻りできないものじゃないですか。全部がありのまま出てきた美しいものなので、自分のなかで絵を消すタイミングがわからないんですよ。準備はしっかりとして、本番は一本勝負。

―― 池袋駅北側の東西を結ぶ半地下の通路[池袋ウイロード]は、2019年11月に植田さんの手で大きく生まれ変わりました。どのような経緯があったのでしょうか?
以前は薄暗く、どこか怖いイメージがあった地下通路を女性でも安心して通れるデザインを目指す、そんな再生プロジェクトとしてお声がけいただきました。当初はパネルで覆い被せて作品を提供する話だったのですが、直接伺うと陰陽のわななくエネルギーを感じ、直感的にここに蓋をしてはいけないと感じて。ありのままのこの場所を肯定したい気持ちから、直接壁に描画させてほしいと伝えました。制作期間は10ヶ月ほどで、毎日池袋に行っては道ゆく人たちに声をかけてもらいながら完成させましたね。

植田志保 2

色そのものがエネルギー。
絵を描いているのではなく、
エネルギーの塊をその時々で固めているイメージ。

―― パステル調の明るい色使いの作品が多い印象ですが、色選びに関してこだわりはありますか?
よく見ると暗い色をまったく使っていないわけではないのですが、対比として明るい色がより際立っているように見えている気がします。色って、光がそこにあることを教えてくれる存在だと思うんですよ。色があるところには必ず光があり、色そのものがエネルギーだと考えています。絵を描いているのではなく、エネルギーの塊をその時々で置いているイメージです。

―― 奥深いお話ですね。自分自身のパーソナルカラーを手に入れるにはどうすればよいでしょうか?
日頃から思考を積み重ねることが大事だと思います。何かの創作をされる方もそうでない方も、「これってなんだろう?」と問いかけることで、自分の井戸を掘る作業ができる気がします。そんな経験の繰り返しで、自ずと自分自身の色の発見に繋がっていくのではないでしょうか。

―― 自問することが大切なんですね。それでは最後に、植田さんが心を惹かれるのはどんな色なのか教えてください。
本音を感じられる、純粋性のある色です。人間の目は1,000万の色を認識することができるそうで、普段私たちはそれぞれの色の名前を知らなくてもそれだけ情報としてキャッチしています。好みは人それぞれあると思いますが、色も記憶を背負っていて、色が無意識に私たちに影響を与えてくれている気がします。そんなこともあって、本音の色が好きですね。

植田志保 3

PROFILE

植田志保さん
兵庫県生まれ。五感を通し、記憶や意識に潜む色の有機的な動きを捉えた表現を発表。対話描画、装画、空間への作品提供のほか、舞台のアートワークを担当するなど活躍は多岐にわたる。
Instagram_@shihoueda_

JOB 美術作家 NAME PRIUS SHOTA

Interview withPRIUS SHOTA

キャンパスに絵を描くように自由な表現で、
作品を観てくれた方に“癒し”を届けたい。

―― まずは、とても鮮やかなフォトアートの制作を始められたきっかけを教えてください。
実はInstagramが創作を始めるきっかけのひとつになっています。まるで映画のワンシーンを観ているような素敵な写真や、日常のなかでドラマを感じる瞬間を切り取っている方が多く、写真でも非現実感のある世界を表現できることに深い感銘を受けました。もともと幼い頃から芸術に親しんでいたのですが、自分のテーマを持って活動をされているプロの写真家の方々とも交流を重ねることで、もしかすると自分もアーティストとして作品をつくることができるんじゃないかと、活動を始める後押しになりましたね。

PRIUS SHOTA 1

―― まるで絵画のような幻想的な写真が印象的ですが、どのように撮影しているのでしょうか?
撮影方法としては、日常を過ごすなかで、心情に訴えかけてくる何気ないワンシーンを撮影し、最終的に“色彩の魔法”をかけることで自分の色に仕上げています。光や色を思うままに表現し、自由な気持ちで心象風景を描き出しています。基本的に淡いトーンの色彩が好きなのは、印象派の画家モネの作風にインスパイアされているからです。この作品は、2020年11月30日から12月13日までの2週間、[中目黒 蔦屋書店]での個展でも展示した『星空の海』という作品です。故郷である大阪で撮影した夕焼けの空を反転させ、下半分を海に見立てています。この上に、飛行機の上から撮影した本物の海の写真をミルフィーユのように重ね、空の写真と海の写真がクロスオーバーすることで抽象的な世界が生まれました。

―― 夕焼けの空を鏡みたいにリフレクションさせているのですね。“心に灯す光と色彩のパレット”をテーマに活動されていますが、この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか?
創作活動を始めた時から、自分の軸でありコンパスにしている言葉です。"心に灯す光"とは、作品を観てくださる方に「癒しと心の潤い」を届けたいという想いから。“光と色彩のパレット”とは、写真というキャンバスに、まるでさまざまな光と色彩の絵具があるパレットを用いて作品をつくっていくというところから来ています。また、今までは主に光に着目をしていましたが、今後は影の部分にも目を向けながら黒色の可能性も模索していきたいと思っています。

PRIUS SHOTA 2
『星空の海』 PhotoArt 2020 Edition 5 (c)priusshota

角度によっては違う色にも見える、そんな色に不思議と惹かれます。

―― Priusさんはトランスジェンダーであることを公表されていますが、作品に心象が投影されることはありますか?
特別LGBTであることが作品に強く影響しているとは思わないですが、「自分らしく生きる」ということは創作するうえでも伝えていきたいひとつのテーマです。自分自身でもまだまだ悩む部分がありますが、同じように悩んでいる人も多く、作品を通じて辛いことや悲しいことばかりではないんだよと伝えたいです。また、それが自分に与えられた使命なのかなとも思っています。

―― 使命感を持たれているのですね。それでは、作品をつくられる際に心惹かれる色とはどんなものでしょうか?
オレンジやピンク、ターコイズブルーなど、好きな色を挙げればキリがありませんが、グラデーションやレインボーのように一色だけにとどまらずに角度によって違う色にも見える、そんな色に不思議と惹かれますね。

―― 最後に、日常生活のなかで、自分自身の色を手に入れることによって得ることができる経験とは、どんなことでしょうか?
自分の好きな色やパーソナルカラーとは、心の内側から泉のように湧き出る感情のことだと捉えています。その時々の感情と向き合って、しっかり対話をすることが大事なのかもしれません。ファッションもヘアカラーも、ひとつでも好きな色を取り入れるだけで、その日一日をよりワクワク過ごすことができて、世界も少し変わって見える。それくらい色が与える影響は大きいと思います。

PRIUS SHOTA 3

PROFILE

PRIUS SHOTAさん
大阪府出身。2016年より“心に灯す光と色彩のパレット”なるテーマを掲げ、フォトアートの創作活動を開始。精力的に個展を催しており、21年2月に池尻大橋、4月には横浜での個展を予定している。また“プリちゃん”という愛称で慕われている。
Instagram_@priusshota